チーム「Link∞UP」は日本と北米の‘愉快で有益な’「マウンテンライフ」情報を日本と英語圏において共有をすること。 その生活を‘一生懸命楽しんでいる人達’のコネクション強化を図ることを目的に活動しています。 日本や北米でのマウンテンライフについて情報の欲しい方や私達に興味のある方はお気軽にご連絡下さい。

2017年7月24日月曜日

Vol82.ギアショップ紹介 ~キャンモア編

リンクアップブログ第82回、担当秋山です。

今回はカナディアンロッキーにあるギアショップの紹介です。
そもそもカナディアンロッキーにある町とは一箇所ではありません。

まずは、ロッキーの玄関口カルガリー、その次順番に、キャンモア、バンフ、レイクルイーズと続きます。山文化が浸透しているエリアですので、それぞれのエリアにギアショップが存在します。山に登る、滑る、降る、んであればギアショップは必要ですよね。私なんか、ギアを買うために山をしているようなもんです。

それぞれの街の代表的なギアショップはと言うと、
カルガリーはMountain Equipment Coop、通常MEC(メック、エムイーシー)
キャンモアはバーティカルアディクションかバリハラ・ピュア
バンフはモノドスポーツ、洋服屋としてパタゴニア、ノースフェース
レイクルイーズはWilson Mountain Sports

などがあります。今回はその中でわが町にあるバーティカルアディクションの紹介です。

名前
Vertical Addiction
FBページ https://www.facebook.com/vertical.addiction.canmore/

場所
まずは場所ですが、キャンモアにある大手食品店セーフウェイからほど近い、緑の屋根が続くショッピングモールに入っています。*地図参照



品揃え
バックカントリースキー用品全般 (板、ビンディング、シール、ブーツ、雪崩ギア等々)
クライミング用品 (アックス、アイゼン、カム、ロープ、シューズ、カラビナ等々)
ザック(各種容量)
洋服 (注目はイタリアのクライミング用洋服メーカー E9。おしゃれなデザインです
キャンプ用品 (ガスカートリッジやウォーターフィルター等々)

カナダに来てから大事なものを忘れてきた!、足りないものがある! ということもあるかと思います。頼りになるローカルショップがありますので、是非ご活用下さい。

外観
営業時間

入ったところ2階もあります
2階から見下ろしたところ
まずは各ブランドの洋服が並びます
シューズ系の取扱も豊富
ザックはクライミング用からバックパッキング用の大容量まで
クライミングエリアはそこそこの品揃え
カルガリーのMECのほうが多いです
ロープは一通り
夏なのでスキーの品揃えは少ないですが、DPS、アトミック、ボリーなどがあります。
バックカントリー用が多いです
スキーブーツ売り場。
こう見ると、バックカントリー用のスキーブーツも種類が増えましたねー

2017年7月19日水曜日

Vol.81 ~雄冬海岸シーカヤック~

こんにちは。星野です。
夏は暑いです。北海道も例外ではなく、日中は30℃を越える真夏日が続きました。
それでも朝晩は涼しくなりますので、寝苦しくないだけ幸せです!なんて言うと「あんたは山の上にいるからだよ!」って妻に言われますけど。

今回は山ではなく海の話、シーカヤックに初めて行ってきました。海に囲まれた国日本、この国に住む人にとって、海は身近な存在ですよね?サーフィンやボディーボード、海水浴や釣り、遊びにしろ、食料確保にしろ、海が好き!って人は結構いるのではないでしょうか?僕も本州に住んでいた時は、よく海に行っていましたが、北海道に来てからはあまり行く機会が無く、今回が北海道に来て以来、初めての海遊びでした!

今回行ってきたのは、北海道石狩地方、日本海に面した雄冬海岸。近くには増毛山地があり、冬は雪が多いエリアです。最高峰の暑寒別岳は、夏のお花畑や、冬のバックカントリースキーでも人気のある山です。

ルートは増毛町から千代志別まで、20kmちょいを1泊2日。
初日全然進んでないじゃん!と思いますが、ちゃんと理由があるんです。
 
曇り空のこの日、海もうねりが結構あったのですが「行けるべ!」という事で準備を済ませ出航しました。シーカヤックって荷物が沢山積めるんです!ビックリしました。

出航したのは良かったのですが、うねりが高いし、風もある。しかも僕が初めてだったので漕いでもなかなか進まない。そのうちに2人とも船酔い。「気持ちわりー」「苦行だー」とかぼやきながら、吐きそうになるのを何とか堪え、上陸出来るところ見つけて今日は早く終わろう!と言う事になりました。

何回か上陸出来そうな所に近づいてみるものの、岩礁があり断念。海岸は砂浜では無く岩場なので岩礁が沢山あります。波が無ければ何ともないのですが、波があるので座礁する危険があり上陸出来ません。3つ目だか4つ目でようやく行けそうなポイントを発見。「いくぞー」と突っ込んでみたものの、高波に乗せられシーカヤックサーフィン状態。浜に打ち付けられ、次の高波でカヤックの中は水浸し。その後もどんどん波はやってきます。船酔いも一気に忘れ、二人で必死にカヤックが波にさらわれない様に押さえ、荷物を全部浜にブン投げ、カヤックひっくり返して水を抜き、なんとか浜に上げました。大人二人が必死になって奮闘している光景は、今思い出すと笑えます!!その時は修羅場でしたけどね。。

海岸は砂浜ではないので、カヤックが石に当たり何ヶ所か穴が開いたものの、問題がない場所だったので一安心。とにかく火を焚いて冷えた体を暖めました。ここからが最高の時間です!

ビール飲みながら焼き肉~!流木も豊富なので焚火し放題。やはり焚火はキャンプの醍醐味ですね。

海に沈む夕日も綺麗です。


こちらが今夜の宿。大きめの石がゴロゴロしてますが、うまく並べれば快適に寝れます。

そして2日目。空は相変わらず曇っていましたが、波はおさまりいい感じ。
実はこのカヤック、今回誘ってくれた方の手作りなんです。春に自宅の物置で自作したそうで、今回が初日でした。アメリカのサイトで設計図を買い、作ったそうですが、カヤック業界では、1つの設計図から1艘しか作ってはいけない、と言う決まりがあるらしく、同じカヤックは作れないそうです。自分で作った自分の船。素敵すぎますね!

多少のうねりはあるものの、前日ほどでは無く、順調に進みました。途中カヤックで入れそうな洞窟もあったのですが、波があったので今回は入りませんでした。そしていよいよ、雄冬漁港を超えて雄冬岬へと入っていきます。


この雄冬岬の景色が最高でした。青い海と海岸の岩壁に見惚れてしまいます。晴れてたらもっと海が青く見えるんだと思います。

雄冬海岸にあるクライミングエリア、雄冬大壁の横も通りますよ。この雄冬海岸を過ぎた所にある小さな集落、千代志別が今回のゴールでした。2日目は、楽しいシーカヤックが出来ました!やはり山でも海でも、天気を見て遊ぶというのは最低条件ですね。でも、ちょっぴりチャレンジングなのも良い勉強になります。今回も良い経験が出来ました!


今回の1枚は海という事で、
マゼランペンギンです!チリのプンタ・アレナスから船に乗って行くマゼランペンギンのコロニーで撮った1枚です。次々に海から帰ってくるペンギンがとても可愛いんです。そして、島中を埋め尽くすペンギンの数に驚きました。大興奮でした!!

2017年7月13日木曜日

Vol.80.カナダのアルパインガイドの一年






みなさん、ご無沙汰しています。谷です。
今回は裕司さんから始まった〇〇の一年シリーズに乗っかって見たいと思います。
ニアミスの鬼カネイワにも乗っかりたかったのですが、ちょっとニアミス、事故等は重くなるんで
2回連続はやめておきます。(笑)
今日はあくまでアルパインガイドという一つだけの資格で山で一年中仕事があるという前提で話します。語弊がないように。
ちなみに国際山岳ガイドやスキーガイドの資格、ロックの資格など夏冬で分かれている場合だと職業は成り立ちます。
でも日本人はあんまりオールラウンダーいないですよね。
特にクライマーはスキーする人いないし、スキーガイドは日本で十分なくらい雪最高だし、ツリーランとか思い出しただけでも、んー楽しすぎる。
羊蹄山でもBCスキー
日本最高!!
あと自分のスキーを突き詰めるなら冬の穂高や不帰など北アルプスに入る気があれば世界トップクラスの滑降ができますしね〜。他の国に行く必要があるかというと…。
でもアルパインロックやアイスクライミングになるとやっぱり他の国に行くわけですよ。なのでその辺を踏まえて話していきますね。

さてACMGアルパインガイドの一年ということで話を始めたいのですが、まずみなさん山岳ガイドって聞いて
真っ当な仕事をしていると頭に浮かぶ貴方。もう真っ当じゃありません(苦笑)というか山に頭の半分は汚染されてますね。
日本でも、北米でもというかヨーロッパ以外の国では山岳ガイドと聞くと「あー季節労働者ね」という反応が都市部または山をしない方々の中では当たり前の反応になっています。これは否定することはできません。やはり収入があまりなく、その土地に根付いていないわけですからよく思わない方がいて当然なわけです。(その山の地元に税金払ってますか?)なので改善するためにも山を生業にする人間で頑張って行くしかないですね。

僕が小屋番だった頃は、地元の方々に夏、涸沢で冬は白馬、ニセコですなんていうと、あー腰を据えれない根無し草の風来坊。
フウテンの寅さん的な目で見られたものです。なのでなかなか土地に溶け込めず苦労しました。大阪出身ですし。
その頃、生き甲斐が山岳救助だった僕は遭対協に入るためにもすぐ空き家を借りたのを覚えてます。(一年の中で一ヶ月も住まないのに)そして全てが少しずつうまく回り始めたのです。それでも借りた家(松本市郊外)周辺で仕事を探すのはなかなか困難でした。

え、じゃ白馬なら夏もいいじゃないですか山の標高も高いし、仕事もあるなんて若い方。
妥協してないですか?本当に夏の白馬でいいんですか?貴方にとって夏も一番ですか?その場所がってことになるわけです。
富士山ガイドでお金稼いで、貯めたお金で遠征登山。でも結局夏だけ仕事して冬はそこにいないわけです。
僕の場合、夏の穂高はアルパインクライミング、登山の日本最高峰、でも冬は仕事がないので松本で小屋番の先輩に紹介されて石工職人の弟子入りしたり、乗鞍高原スキー場のパトロールの人に拾ってもらったりして本当にいい時間を過ごさせていただきました。ですが一年通じていいかと言われるとやはり移動しているわけですね。渡り鳥のようです。

カナダも同じで、冬いいところは夏仕事がなく苦労します。パウダー天国的な場所は夏、仕事が林業とか限られた仕事になるわけです。
夏スコーミッシュで、冬レベルストーク、ネルソンなんていうと聞こえがいいですが、冬と夏で住む場所が変わるのは本当に大変なことだし、地元に根付くという意味では難しいことは違いないでしょう。

世界的に見ればシャモニー、ツエルマットなど一年中通して
ハイライトがある街がありますが、実はこれすごいことなんですよ一年中いいということは。
つまり世界中見渡してもほとんどないわけです。

そしてほとんどのガイドが冬、スキーガイドせざる得ないわけです。
アルパインガイドといえばアイスクライミング!!


ちなみにバンフ、キャンモアどうなのって、こここそがスキーをしないあなたにとって、最高の場所なんです。
アルパインガイドにさえなれば一年中、世界最高峰のことができます。
パウダースキー、BCスキーは良くないバンフ。(前も説明しましたが、日本でいう八ヶ岳と同じ気候のエリア、低温、小雪)
春の氷河スキーはともかくACMGスキーガイドは基本的に3月までバンフ、キャンモアにいません。
ですが雪が少ないイコール、アイスクライミングがいいわけです。世界最高のアイスクライミングエリア、バンフ国立公園。
バンフ、キャンモアでアルパインガイドにさえなれば冬はアイスクライミングの世界最高峰。夏はカナディアンロッキーの高峰や氷河登山、バカブーまでガイドできるわけです。(冒頭の写真、これも世界トップクラス)さらに地元に密着した暮らし、そして登りができるわけです。
山というのはやはり季節によって良さが変わります。なのでどうして冬の仕事、夏の仕事で分かれてしまうわけですね。
ですがキャンモアにさえいれば全てがモウマンタイ!!
しかも一年中働けるので日本でいう正規雇用と同じ待遇が受けれます。
厚生年金や社会保障も充実して受けれるわけです。つまり、好きなことして生きてるのに安定した生活がここに!!


さあアルパインガイドの一年を写真を通して見てください。山の業界で世界最高峰が場所がそこにあるのです。


冒頭の写真とともに。
ここどこだか知ってます?
カーナーダーのバカブー!!
ここでガイドできるなんて最高!!
Mtヤムナスカでのマルチピッチのガイディング。300mの壁がわずか1時間のアプローチ。
キャンモアから車で30分。氷河登山したあとのレスト日にいかかが?

北米のマッターホルン、アシニボインでの登頂ガイド。
去年は頂上直下で断念しましたが今年もいきますよ。登るぞー。


オーロラの下アイスクライミングガイド。世界最高のひと時。


いやーカナダのアルパインガイドやばいっすね。でも僕は今年の冬からACMGスキーガイドプログラムを受け始めます。
なんで?って話ですが、まあ趣味の域ですね。受ける必要が生活面であるかと言われればないかもしれません。
でもスキーもクライミングも両方できるって二刀流大谷選手みたいでカッコいいじゃないですか!!
世界最高峰と言われるACMGスキーガイド、書類選考をパスするのが難しく、倍率20倍。
みんな3−5年かけて書類審査受けるくらい人気なんすね〜やっぱりヘリスキー、キャットスキーは楽しいですもんね。
どの国の人もヘリコプターは皆んな大好きってことですね。

さて最後になりましたが、じゃ日本だとどこがいいの?って話ですが、上高地周辺がやはり全てにおいていいと思います。スキーもいいし、アイスもいいし、アルパインできるし、夏の岩場がイマイチですが、松本、いいジムありますしね。街も渋い。
ただカナダに来てからは僕はやはり旭川周辺かなって気もしてます。人が少ない。青巌教でクライミング。カミホロ、層雲峡、でアルパインやアイス。カムイ岩でミックス。富良野周辺のBCスキー。最高っすね。標高高い山がないってだけ。
あとのエリアは冬ダメだったり、夏ダメだったり、混みすぎてたり。んーむずいっすねやっぱり。

ということで結局キャンモア、バンフが恵まれた場所かという話になっちゃいました。
土地は人を育てるわけです、やはり。  
なので僕は苦しくとも、仕事がなくとも、山のそばに暮らしたいですねー。それこそが登山、スキーの文化を育てていくことなのかもしれません。では!!




2017年7月5日水曜日

Vol.79 私のニアミス遍歴 - 五竜・遠見尾根での道迷い

スノーシーズンが終わりまして、子育てと通勤の生活に戻りましたカネイワです。本当は無雪期も山に行きたいのですが、ここをグッと抑えることで次の白い峰々がググッと近づいてくるのです。つまり、雪の無いときは子育てに専念することでポイントを稼ぎ、雪が降ったら「お願いします」と言い残して山に繰り出す訳です。

これを基本戦略とし、昨シーズンは何とか24回のスキー山行が出来ました。序盤の寡雪にもかかわらず、3月前後に連続した降雪で残雪の多いシーズン、本当はもっと長く滑りたかったのですが、、、これ以上言うと理解のある嫁に怒られるので止めておきます。

さておき、そんな昨シーズンを振り返った時、回数の割にニアミスが多かったことに気づきました。ハインリッヒの法則によると「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」そうです。この数字は「ある工場で発生した労働災害を統計学的に調べ」た結果からくる数字なので、そのまま山の事故に置き換えることはできません。しかし、何度かニアミスを繰り返し、それを放置するうちに重大な事故が起きる、というのは必定のように思います。

そんな訳で少し過去に遡って、自分の危なかった経験を掘り起こし、分析することで今後の対策とし、また共有することで「こんな人は事故る」という例を提供したいと思います。もちろんヤマケイの羽根田さんシリーズ等、遭難に関する書物には事欠きませんが、サンプルは多い方が良いに越したことはないので、少し季節外れにはなりますが、お付き合い頂けると幸いです。

遠見尾根から五竜岳を望む

冬の遠見尾根で道迷い

「道迷い」と書きましたが、ここでは「自分の現在位置がわからないこと」を意味しています。当然ながら雪山に「道」は無く、他人の踏み跡が無ければ自分の歩いた跡が道となります。必ずしも夏道通しに歩くことが最適では無いので、雪が付いても歩きやすい所、雪崩や雪庇など冬特有のリスクが低い所を歩いていきます。自分の判断が事の正否に直結する。それも最悪の結果が「死」という重大なものであることが、日常には無い緊張感を与え、そこでの経験を特別なものにすると私は考えます。

この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ。

- アントニオ猪木 -

白岳へ

遠見尾根は積雪期の登山ルートとしては定番なので、ここでは詳しく書きません。基本的には素直な尾根で、天気が良ければまず迷うことが無い。私はそう思い込んでおりました。しかし、一旦視界が無くなると簡単に支尾根に迷い込んでしまい、自分がどこにいるのかわからなくなりうる、ということを、この時身をもって体験しました。

2014年1月25日土曜日、パートナーと二人で五竜岳のピークを踏む目的で山スキー山行に臨みました。行程は一泊二日で、初日は西遠見あたりまで、二日目は五竜岳の山頂往復と下山というスケジュールです。今でしたら天気の良い日に深夜から登り始め一日で...ということもできるのですが、当時の私は体力に自信もなく、経験も浅かったためそのような発想はありませんでした。

遠見尾根は小遠見山、中遠見山、大遠見山、西遠見山といくつかのピークを経由した後、白岳のピークまでで、そこから五竜岳までは後立山の主稜線となります。初日はゴンドラを利用して入山し、西遠見山にテント泊装備をデポ、五竜岳山頂往復としました。山頂手前は夏道が埋まっており、カチカチで緊張を強いられ、またパートナーのペースが上がらず、無事登頂しましたがベースキャンプに戻るのが遅くなりました。

朝の雪洞

翌朝雪洞で目覚めると入口が半分埋まっていました。新たにまとまった降雪があったことに加え、風で雪が吹き溜まっていたようです。雪かきをしてから朝食を摂り、準備を進めましたが、前日に登頂し「あとは下山するだけ」という意識が油断を生み、のろのろと10時前に出発しました。

午前中は前日からの悪天が残り、午後からは回復するという予報に基づいた判断でもあったのですが、実際には午前中の方が天気が良く、昼頃から夕方までは吹雪でした。入山前の予報をそのまま信じて修正しなかったことにも問題がありました。

下りは白岳沢を滑って帰る選択肢もあったのですが、直前の降雪量が多く今も降り続いていること、視界不良であること、当時このルートに関する予備知識が無かったなどから、遠見尾根を戻ることに決めました。しかし、出発してからいきなりルートをロスト。視界が悪く、前日のトレースも消えている中、安易に急な尾根を下りてしまい、登り返しました。途中小規模な雪崩が発生し、やや緊張する場面も。遠くが見渡せないとルートを見つけるのが難しく、単純だと思っていた尾根に意外にも複雑な地形があることに気づかされました。

吹雪の中登り返し

またスキーでの下りは登山での下りよりも格段に速いため、ルートミスに気付いた時点で既に結構な標高差を落としてしまっていることにも気づきました。遠見尾根は基本的に緩やかな尾根なので、急になり過ぎたと感じた時にミスに気付くのですが、その時にはスキーでは登り返せない斜度になっており、ツボ足でのラッセルにも時間を要しました。

その後順調に進むも、小遠見山を巻く際に再び道迷い。小遠見山は緩やかなピークで北西側を巻くと登り返しが無くショートカットできるのですが、行きついた先がどうもおかしい。一ノ背髪、スキー場に続く尾根はなだらかなはずなのに、今いる尾根は心なしか急過ぎるようです。とはいえ、方角は正しい。

視界が効かず印象が違うだけだろうかと思い、下る。地形図と見比べても傾斜が明らかにおかしい。この時点でもう現在地がわからない。そのため、遠見尾根まで登り返すことにする。巻いて出たポイントよりさらに先の小遠見のピークがあると思われるところまで上がってみる。ここに北東に伸びる尾根がある、という予想だったのですが、実際には東南東に伸びる尾根があるのみ...。

赤の×が道迷い地点

「これは、天狗岳へ伸びている尾根か?」

ということは「やはりさっきの尾根で合っていたのではないか」と、もう一度滑走し、200メートル以上下る。ですが、やはりこの尾根は急すぎました。立ち止まり、パートナーと議論する。私は間違っていることだけは明らかだと主張、相手は方角的には正しいという平行線。私は説得するのが面倒くさくなり、こう吐き捨てました(と記憶している)。

「じゃあ、もうここ下ってみる?結構急だし雪崩リスクは高くなるけど、地形図的に白岳沢は下れる...と思うよ」

それはどうも恐いらしかった。私にはこの時、この混乱から早く抜け出したいという焦り、そして自分は恐くない、どこでも下りられるのだという、根拠の薄い自信やパートナーに対する強がりがあったように思います。ですがその時、視界が少しだけマシになり、東の方に尾根が見えました。ここが小遠見から派生する尾根だとすると、あれほど近く尾根は見えないはずでした。

これが決定打となり、小遠見より手前を下りてしまったと確信し、再び登り返すことにしました。ここのラッセルのキツかったこと...。風雪も容赦なかったです。再び遠見尾根に復帰し、怪しい凹凸を掘り起こすと「中遠見」の標識。これには愕然と同時に安堵させられました。そして、その後は何事も無く帰ることができました(遅くにゲレンデに戻ったため、ゲレンデ整備中のパトロール関係者に怒られた以外は)。

激震が走った

中遠見の教訓

既に文中でもいくつか怪しいポイントや反省点が挙がっていると思いますし、私が気づいていない(指摘されないとわからない)問題点もあるかも知れません。私としては、ここで大きく分けて2つのポイントを挙げたいと思います。1つは晴れていれば一見明瞭な尾根でも、下りと視界不良という要素が重なれば、簡単に迷ってしまうことがあること、そしてその認識が甘かったこと。もう1つは心理的な要因により、悪い方向に舵を切ってしまうことがあること。

これは道迷い対策のためにしていることではありませんが、最近は視界の悪い日に森林限界を超える(いわゆるアルパインエリア)には入らないようにしています。樹木が無い分迷いやすこともありますし、滑走目的だと光が無いと楽しめないからです。標高の低いエリアは雪崩のリスクも比較的低く、天気が悪くても滑走を楽しめます。あとは GPS (私のはまだスマホですが...)を持ち、要所要所で現在位置を確認すること。これを使う使わないは、登山という行為をどのように捉えるかによりますし、今でも「地図とコンパスだろ」という方もおられます。

しかし、山スキーのように下るスピードが速い場合、地形の読みは早ければ早いほどよく、その判断は正確でなければ意味がありません。そう考えると、私は GPS 許容派(特に山スキーは)です。

この時見た人生初のライチョウ

心理面については、性格、年齢的なものもあるかと思いますが、これはさておき、一般論として「正常性バイアス」が働いていたように思います。「自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性」らしいのですが、一度中遠見に登り返した時に尾根の方向がおかしいと気づいていたにもかかわらず、これを過小評価して再び下ってしまうあたり、コレかなと思います。この時もう少しラッセルして、中遠見の道標を確認していれば、もう少し早く帰れたと思うのです。これは、心理面と言いつつ体力面なのですが、疲れていると手間を省いてしまったり、安易な方(下る方)へ流れてしまうという傾向でもあります。そういう意味で、体力と時間はあればあるほど良いような気がします。

結果として「ちょっと迷った」話を長々と書いたみたいになってしまいましたが、どこかで別の判断をしていたら、違った結果になっていたかも知れません。今回のケースは、1980年12月に八方尾根で起きた逗子開成高校の遭難事故に似ているように思います。八方尾根も晴れていれば迷いませんが、一旦視界不良になると意外にも複雑な尾根で、道迷いが起きやすいと言われています。そして、逗子開成高校のパーティは迷った結果、ガラガラ沢を下り、下部で6名が遭難死しています。身近なフィールドでも気を緩めずに事に当たりたいと改めて思った次第です。

これからも山に行けずにタイムリーな話題が無いときに、このような投稿を続けていく予定です。